私は長年ゲームの品質管理に関わっていく中で、コンシューマーゲームからスマホゲームへと時代の移り変わりや、ゲームデバッグからソフトウェアテストへのテスト手法の変化など、ゲーム品質管理の今昔を体験したり見聞きしてきました。
15年以上前のコンシューマーゲーム時代の品質管理の現場では、実装されたゲームを個々のデバッガーがそれぞれの経験を活かしながら、ひたすらにイレギュラーなテストをしてバグ探索をしていました。
そこから時代を追うごとにテスト内容の抽象度の高いチェックリストを活用し始め、いまではテスト内容の具体性の高いテストケースが活用されるようになっています。
多くの人員が稼働するゲームテストの現場ではテストケースは有効な手段ですが、テスターのバグ探索力という一点においてはマイナスに働いているのではないかと考えています。
バグ探索よりノルマ達成の意識が強くなった
ゲームテストの現場ではテストケースが活用されるケースが多くなってきています。
テストケースにはテストする機能やテストすべき観点が整理されており、テストするための手順やその結果どういう挙動となるのかという情報がまとまっているため、(極端な話)そのゲームのことを知らなかったりテストの経験が無くてもテストをおこなうことが出来ます。
テスト期間中に膨大なテストケースを消化しなければならず、必然的に1日あたりのテストケース消化ノルマが出てきてしまいます。
そのため、テスターはテストケース消化を優先してそれ以外のことをする余裕や意識が無くなっていってしまい、いわゆる「行間を読んだテスト」をしなくなっていってしまうのです。
テストケースの活用が無かった時代では、常に「どうしたらバグが出るか?」を考えていましたが、テストケースの活用が進んだ現代では「どうしたらバグが出るか?」を考える時間自体が減ってしまいました。
バグ探索の時間が減ってしまったこととバグ探索する意識が薄くなってしまったことで、良くない相乗効果が生まれてしまいました。
スマホゲームの特性がバグ探索力低下に?
コンシューマーゲームではインゲーム要素が強いものが多いのに対し、スマホゲームではアウトゲームの割合が多いと感じています。
自由度でいうとインゲームのほうが高く、何をどうしたらバグが出るのかと思考をめぐらせなければなりません。
逆にアウトゲームでは機能ごとにやれることに制限があったり他の機能との関係性が薄いことなどから自由度がそこまで高くはありません。
また、スマホゲームではイベントが毎月のように開催されますが、イベントごとに型が決まってきていると思います。イベントのテストではデータの確認が主となり、機能に関するテストはあまり多くはありません。
定常的なイベントともなればデータ内容がイベントに即したものになっているかという確認のみになり、バグ探索を目的としたテストは行われないことでしょう。
こういったスマホゲームの特性が、ゲーム業界全体で見たときにバグ探索力に影響が出ているとも考えられます。
いざバグ探索をやってみると‥‥?
現代はなかなかバグ探索力が鍛えづらい環境も多いですが、それでもバグ探索が中心のフリーテストは行われます。
実際テスターにフリーテストを指示しても、バグを探すためにどういうことをして良いかわからず、結果的にユーザーと同じような操作・行動や、機能が仕様通り正しく動いているかの正常系の確認になってしまうことが多くあります。
バグ探索の際は発想を広げるために他のテスターと話ながら活動することが有効なのですが、あまりそういった様子も見られません。
これはテストケース中心のテストの影響なのか、それとも時代の変化による若者の意識の変化なのか、はっきりとはわかりませんが、どちらにしてもバグを見つけることに対しての貪欲さは薄くなっているように感じています。
まとめ
コンシューマーゲームが中心の組織は、昔と比べてもそこまでバグ探索力が低下してないかもしれません。
しかし、ゲーム市場の約3分の2はスマホゲームが占めており、このスマホゲームのテスト従事者のバグ探索力は低下している印象を拭えません。
ただ、現代ではテストケースという形で必要なテストを事前にまとめたうえでテスト活動をしているため、ひとつひとつの活動の意味・根拠を持ち非効率な活動の抑制に繋がり、目的や戦略から最適なテストを選択して活動しているため、テストの全体的なクオリティは上がっていると考えられます。
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